大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

長崎地方裁判所佐世保支部 平成10年(ワ)55号 判決

原告

野田能久

右訴訟代理人弁護士

樋口信弘

被告

トーカンマンション潮見町管理組合

右代表者理事長

土橋俊武

右訴訟代理人弁護士

村山博俊

主文

一  原告が別紙物件目録記載二の土地につき、同目録記載一の土地を要役地とする通行のための地役権を有することを確認する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  原告が別紙物件目録記載二の土地につき、同目録記載一の土地を要役地とする通行のための地役権を有することを確認する。

二  被告は、原告に対し、別紙物件目録記載二の土地を通行することを妨害してはならない。

三  被告は、原告に対し、平成九年一二月一日から本件訴訟が確定するまでの間毎月六一万二〇〇〇円の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、別紙物件目録記載一の土地(以下「原告土地」という。)を所有する原告が、同目録記載三の建物(以下「トーカンマンション」という。)の区分所有者により構成し、同目録記載二の土地(以下「本件通路」という。)の敷地利用権の管理者である被告に対し、本件通路のもとの所有者との間で本件通路につき通行地役権設定契約を締結したと主張し、右通行地役権の確認を求め、また、原告が原告土地に賃貸用駐車場の建設を計画したところ、被告が本件通路の通行を禁止する旨通告したことが原告の地役権を妨害し、不法行為にあたると主張して、通行妨害の禁止と、民法七〇九条に基づき、駐車場の完成、賃貸によりあげうる収益の賠償を求める事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、原告土地を所有する。

2  被告は、トーカンマンションの区分所有者により構成され、本件通路の敷地利用権の管理者である。

3  原告は、原告土地に駐車場の建設を計画したが、被告は、原告に対し、原告が本件通路を通行することができる範囲が限られていることを通告した。

二  争点

1  通行地役権確認請求につき、被告に当事者適格があるか。

被告は、原告の主張によれば、原告と本件通路のもと所有者との間で通行地役権設定契約を締結し、トーカンマンションの区分所有者がその地位を承継したというものであるから、通行地役権確認請求の当事者適格を有するのは右区分所有者であり、管理組合であって建物・敷地等の管理を行うにすぎない被告には当事者適格がない旨主張する。

2  原告と本件通路のもと所有者との間で本件通路につき通行地役権設定契約を締結したか。

(一) 原告の主張

原告と当時の本件通路の所有者であった訴外地産トーカン株式会社(以下「地産トーカン」という。)は、平成元年九月一日、本件通路を承役地、原告土地を要役地とする通行を目的とする地役権設定契約を締結した。

(二) 被告の反論

原告と地産トーカンとの間で本件通路につき通行に関する合意があったとしても、地役権を設定したものではなく、債権的な権利としての通行権を認める合意をしたにすぎない。

3  原告の通行権の内容に制限があるか。

(一) 原告の主張

原告と地産トーカンとの間の通行地役権設定契約では、原告の本件通路の通行を制限するようなことは合意されていない。したがって、原告が計画している賃貸用駐車場を利用する自動車の通行も認められる。

(二) 被告の主張

原告と地産トーカンとの間の本件通路に関する通行合意は、原告土地が住居敷地として使用されていたことを前提として、その居住者の用に供するために必要と認められる人及び車両の通行を認めたのであり、少なくとも原告が計画しているような営業用の駐車場として使用することを前提にその駐車場に出入りする車両の通行まで認めたものではない。

また、原告と地産トーカンとの間の契約では、原告がトーカンマンションの住民に対して収拾できない不法行為をもって迷惑を及ぼした場合に原告の通行権を剥奪することができると合意されているが、右のような限度に至らなくても、トーカンマンションの住民に迷惑が及ぶ行為を制限することができるというのが当事者の意思に合致する。原告が計画している営業用駐車場の建設は、右迷惑行為に該当する。

4  トーカンマンションの区分所有者は、通行地役権設定契約上の地位を承継したか。

(一) 原告の主張

トーカンマンションの区分所有者は、地産トーカンまたは地産トーカンから区分所有権を取得したもの(その後の承継人をも含む)から、トーカンマンションの区分所有権を取得する際に、原告が本件通路の通行権を有することを条件として取得しており、原告に設定登記がないことをもって通行地役権を否定することはできない。

また、右区分所有者は、右通行地役権が原告土地が居住用に使用される限度において認められるものであるとの認識で取得したものではない。

(二) 被告の主張・反論

原告は、原告主張の地役権につき登記を有しない。

また、トーカンマンションの区分所有者は、これを購入する際、売買契約書や管理規約によって、原告の通行権が原告土地の居住者及び関係者による通行に限定されていることから、これを前提として権利義務の関係を承継したにすぎない。

5  被告が原告に対して駐車場に出入りする車両のための通行が認められないことを通告したことが通行妨害、不法行為にあたるか。

(一) 原告の主張

被告が通告したことにより、原告は、計画をしていた駐車場の建設をすることが事実上できなくなった。これは、原告の本件通路の通行地役権を妨害し、侵害する不法行為である。

(二) 被告の反論

被告は、単に原告が許される通行の範囲が限定されていることを通告し、説明をしたにすぎず、原告の通行を妨害したものではないのであるから、不法行為にあたらない。

6  原告主張の次の損害及び損害額

原告土地に合計三五台分の駐車スペースを有する二階建駐車場の建設を計画し、平成九年一一月末日完成の予定であった。

右駐車場は、一か月合計六一万二〇〇〇円の駐車料金の収入が見込まれており、原告は、右駐車場の完成が遅れることにより同年一二月から一か月あたり六一万二〇〇〇円の利益を得ることができなくなった。

第三  争点に対する判断

一  通行地役権確認請求の被告適格について

1  被告は、トーカンマンションの区分所有者で構成し、本件通路を含む建物・敷地を管理するにすぎず、本件通路を所有するものではなく、このような被告との間で、原告が本件通路につき通行地役権を有することを確定してもその効力が区分所有者に及ぶものではない。

2  しかし、被告は、原告が主張する通行地役権を有することを争っていることは被告の主張から明らかであること、被告は、前記のとおり本件訴訟に先立ち、原告に対して原告が計画している駐車場としての利用を前提として通行を認めたものではない旨通知していること(甲八の2)、被告が本件通路と無関係の第三者ではなく、本件通路を含む土地とその地上建物の区分所有者を構成員とする管理組合であること、トーカンマンションの敷地及び共用部分等(本件通路は右に含まれる。)の変更、処分及び管理が被告の業務に含まれること(甲六)によれば、原告が原告主張の通行地役権を争う被告に対して、通行地役権を有することの確認を求めることができると解するのが相当である。

3  したがって、被告に当事者適格が認められ、これに反する被告の主張は、理由がない。

二  通行地役権設定契約の成否について

1  証拠(甲九、一〇の1ないし3、証人水内篤、原告本人)によれば、原告土地は、公道に至るためには本件通路以外にも通行する道が存在し、かつては右道を通行するほかなかったが、右道は階段状であり、自動車による通行をすることはできないこと、原告土地から自動車により公道に至るには、本件通路を通行するよりほかに方法がないことが認められる。

2  証拠(甲六、一三の1ないし3、一四の1ないし3、一五の1ないし3、乙一、六の1・2、証人水内篤、同米澤幸男、同前川満喜子、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 平成元年九月以前から、原告土地には、原告所有の居宅が存在し、原告の母らが居住していた。

(二) トーカンマンションの敷地部分は、平安閣が葬祭場の建設を計画し、梅田興産が土地を取得し、原告に対しても、昭和六〇年一〇月ころから、原告所有土地の一部を売り渡すよう交渉した。

そして、交渉の結果、原告と梅田興産との間で、昭和六二年二月ころ、公道から原告土地に自動車によって通行することが可能な道路の造設を条件として、原告所有土地の一部を譲渡することが合意された。

梅田興産は、右合意に基づき、同年五月ころから工事にとりかかり、原告土地へ出入する道路の一部(幅員約4.5メートル)を造り、また、原告所有土地の一部を切り崩した。

原告土地と隣接する梅田興産所有土地との境界付近について、昭和六三年四月ころ、測量が行われた。

(三) その後右葬祭場建設が中止され、トーカンマンション敷地部分は、清水建設株式会社九州支店が買い受けて、マンションを建設することになった。

梅田興産と清水建設との右土地の売買契約では、前記原告のための道路を確保することは条件となっていなかった。

(四) 清水建設は、マンション建設のため、近隣土地・建物の所有者である原告とも折衝したが、原告から原告土地への自動車による通行を可能にすることを強く求められたものの、当初は、梅田興産から負担のない土地を取得したものであることからこれを拒否していた。

(五) その後、トーカンマンションの敷地は、地産トーカンが買い受け、マンション建築工事を清水建設が請け負い、地産トーカンがこれを分譲することになった。その際、清水建設の担当者から地産トーカンの担当者に対して、原告所有土地との境界問題があることと原告から自動車による通行が可能な通路を確保する希望が出ていることを伝えた。

(六) そして、清水建設、地産トーカンと原告の代理人であった若松多瑩とが交渉し、若松からマンション建設に対する反対が表明されたこともあって、清水建設及び地産トーカンは、近隣対策の一環として、原告が原告土地から国道三四号線に至るまでマンション敷地内を自動車により通行することを認めることになった。

(七) その結果、清水建設、地産トーカン及び原告との間で、平成元年九月一日、土地建物相互交換基本契約書(甲五)が取り交わされ、次の事項等を合意した。

(1) 原告が所有する土地とトーカンマンションの一戸とを交換譲渡する。

(2) 地産トーカンは、原告に対し、原告土地と国道三四号線に通じる幅員四メートル以上の車路を造成し、原告及びその関係者が公路まで通行することを永代保証する。

地産トーカンは、そのために、トーカンマンションの分譲にあたり譲受人に右条件を徹底させることを分譲の条件とする。

原告及びその承継者がマンション住民に対して収拾できない不法行為をもって迷惑を及ぼした際は、通行に関する合意は無条件に解除することができる。

原告に通行を認める車路は、右契約書に添付された図面に表示されており、本件通路とほぼ同一である。

(八) 清水建設及び地産トーカンは、トーカンマンションを建設、分譲した。

右建設に際し、建物の南側部分に直接国道三四号線に通じる舗装された通路が設けられたが、右通路のうち大部分は、トーカンマンションの居住者、利用者等が徒歩あるいは自動車等により通行するものとしてもともと予定されていたものであり、原告のためにあえて造った部分は、本件通路のうち原告土地に接する付近である。

また、右通路のトーカンマンション玄関前付近から国道三四号線側は、自動車が通行する車路と、歩行者が通行する部分とが明確に別けられ、トーカンマンションの駐車場が右玄関より西側(国道三四号線と反対側)のトーカンマンション内及び本件通路上に設置されている。

本件通路は、国道三四号線から原告土地に至る右車路の部分である。

(九) 地産トーカンは、トーカンマンションの分譲にあたって、原告土地の「居住者及び関係者」がトーカンマンション敷地内南側通路を通路もしくは車路として無償で使用させることを同意事項とすることを管理規約に定め(同付則四条)、売買契約書にも買受人の同意事項として同一内容を記載した。

3 以上認定の事実によれば、原告と地産トーカンとの間で、平成元年九月一日、原告が本件通路を自動車を含む通行をすることを認める合意が成立したことが認められる。

そして、原告土地には本件通路のほか自動車により公道に通じる通路が存在しなかったこと、そのため、原告が地産トーカンに対して右通路の確保を求め、交渉の結果右合意が成立したこと、右合意には原告土地の承継人にも通行権を認めることが予定されていること、地産トーカンは、トーカンマンションが分譲マンションであるため、分譲に際して区分所有者が原告の通行を承諾することを管理規約に定めたり売買の内容としたこと、原告に通行を認める通路は、トーカンマンション居住者らのための通路でもあり、また、その範囲が前記土地建物相互交換基本契約書添付の図面によって確定していたこと、以上の諸事実を総合すると、原告のために通行地役権設定登記がされていないこと、右登記に関して当事者間で話題になったことを認めるに足りる証拠はないことを考慮しても、前記合意によって認められた原告の通行権は、単なる債権ではなく、通行地役権であると認めるのが相当である。右認定に反する証人水内篤の供述部分は、以上に照らし直ちに採用することはできない。

なお、被告は、前記のとおり原告がマンション住民に対して収拾できない不法行為をもって迷惑を及ぼした際は、通行に関する合意を無条件に解除することができると合意されていることから、通行地役権設定契約ではない旨主張するが、通行地役権の内容は、強行法規に反しない限度でその設定行為によって定めることができると解されるところ、右のような解除事由の定めは強行法規に反するとは到底認められず、被告の右主張は、採用することはできない。

三  通行地役権の内容について

1  原告は、原告の通行地役権に制限はなく、原告が原告土地に計画している賃貸用駐車場の利用者が自動車によって本件通路を通行することも原告の通行地役権に含まれる旨主張し、被告はこれを争う。

2  前記説示のとおり、通行地役権の内容は、原則として当事者の設定行為によって定めることができると解される。

そこで、原告と地産トーカンとの間の前記通行地役権設定契約において、原告が主張するような無制限の通行権が認められたかどうかについて、以下検討する。

3(一)  原告と地産トーカンとの間で右通行地役権設定契約を締結するに際して作成された前記土地建物相互交換基本契約書(甲五)には、原告及びその承継人がマンション住民に対して収拾できない不法行為をもって迷惑を及ぼした際は、通行に関する合意を無条件に解除することができると定めるほかは特段の制限は記載されていない(甲五)。

また、原告や前記若松と地産トーカンとの間で、原告の通行を認めるにつき原告土地の利用形態を制限するような話が出たことはない(証人、水内篤、同米澤幸男、原告本人)。

(二)  前記認定のとおり、原告と地産トーカンとの間の前記通行地役権設定契約は、公道から原告土地へ自動車による出入りができなかったため、原告の強い要望により締結されるに至った。

(三)  前記認定のとおり、原告と地産トーカンとが合意する前には、原告と梅田興産との間で、本件通路とは位置が異なるが、原告土地から国道三四号線に自動車を利用して出入りすることができる通路を造設することになり、その一部が工事された。

(四)  原告土地及びトーカンマンションの敷地は、商業地域内にあって、佐世保駅に近い位置にある(甲一七の3・6、弁論の全趣旨)。

(五)  前記認定のとおり、本件通路は舗装され、トーカンマンションの玄関前付近から国道三四号線側は、自動車が通行する車路と、歩行者が通行する部分とが明確に別けられている。また、トーカンマンションの駐車場がトーカンマンション内及び本件通路上に設置されていて、右駐車場に出入する自動車が本件通路を通行している(乙六の1・2、証人前川満喜子)。

(六)  原告は、原告土地に一〇台分の駐車スペースを設け、トーカンマンションの居住者らに賃貸してきたが、これに対してトーカンマンションの区分所有者らから異議が述べられたことはない(甲一六の1ないし8、原告本人)。

4(一)  他方、前記認定のとおり、地産トーカンが原告との間の前記合意に基づき作成したトーカンマンション管理規約や分譲のための売買契約書には、原告土地の「居住者及び関係者」による通行を認める旨の記載がある。

(二)  前記認定のとおり、清水建設は、梅田興産からトーカンマンションの敷地を買い受けるにあたり、原告に対する道路確保を条件とはしていなかった。

(三)  前記認定のとおり、本件通路は、道路状になっているとはいえ、トーカンマンションの敷地内に設けられた車路(自動車が通行するための通路)である。

(四)  本件通路は、トーカンマンションの居住者等が自動車による通行や徒歩等による通行の用に供し、また、トーカンマンションへの外来者も通路として利用している(乙六の1・2、証人前川満喜子)。トーカンマンション及びその敷地内の駐車場は、八二台分が確保されており、現在全部利用されている(証人前川満喜子)。

したがって、本件通路の利用者は、自動車に限っても少なくなく、時に、自動車対自動車、自動車対人の接触事故等が起きている(乙二の1・2、四、五の1、証人前川満喜子)。

(五)  本件通路は、国道三四号線に通じているが、同道路の交通量が多く、信号機が設置されていないため、本件通路から国道三四号線に右折する場合や、同国道から本件通路に左折する場合には、他の自動車の交通により極めて困難であり、本件通路ではなく、トーカンマンション敷地内を通って別の道路に出入する車両が多い(甲九、乙六の1・2、証人前川満喜子)。

(六)  原告が原告土地に設置を計画している駐車場は、二階建で合計三六台分の収容能力を有するというものである(甲一七の1ないし6、原告本人)。

これらの自動車が本件通路を通行することにより、その交通量が増えることは確実である。

(七)  前記認定のとおり、右契約当時、原告土地には、居宅が建っていて、原告の家族が居住していた。原告あるいは前記若松が地産トーカンに対して、将来原告土地に多数の自動車が出入りするような利用方法をも予定していると告げたことはない(証人水内篤、同米澤幸男。右認定に反する原告本人の供述部分は、右各証拠に照らし直ちに採用することはできない。)。

なお、通行地役権設定契約当時、原告土地は、建築基準法等の制約(特に接道義務)により、建築することができる建物に制限があり、また、原告は、その計画した駐車場の確認申請において、トーカンマンション敷地も右駐車場の敷地としている(甲一七の1ないし6、証人米澤幸男)。

5(一)  以上3の事実及び原告の通行地役権が将来とも認められたものであることによれば、原告の通行地役権は、原告土地の利用形態を制限する内容のものではないかのようである。

そして、清水建設及び地産トーカンは、前記通行地役権設定契約において、原告土地の利用形態によっては本件土地の通行が許されなくなるかどうかについて、十分に検討したことはなく、前記トーカンマンションの管理規約の定めや売買契約書の記載事項も、原告土地の居住者及びその関係者でない者の通行を排除する趣旨で記載されたものではなく(証人水内篤、同米澤幸男)、被告が主張するように、原告土地の居住者及びその関係者に限って本件通路の通行を認めるものと認めることはできない(なお、証人水内篤及び同米澤幸男は、前記通行地役権設定契約において、地産トーカン側が原告土地の当時までの利用状況を念頭においており、居住者とその関係者の通行を考えていた旨供述する。しかし、右契約締結までに、原告側との間で右ような制限を明示したことなく(右各証人)、また、右通行地役権が原告土地の承継者にも認められることを前提としていること、したがって、将来原告土地の利用上形態が変わりうることは当然予想されたこと、原告土地が居住用に利用される場合にのみ通行を認める合理性が不十分であること、以上に照らし、証人水内篤及び同米澤幸男の前記供述部分は、原告の通行地役権の内容が原告土地の居住者及びその関係者による通行に限定されていた趣旨としては採用することはできない。)。

(二) しかしながら、前記4の事実によれば、原告やその承継人による本件通路の利用形態は、原告土地が居住用として利用される場合と、原告が計画しているような多数の自動車が利用する駐車場を設置する場合とでは、交通量の増加とそれに伴う交通事故発生の危険性の増加等、本件通路の所有者の受容という観点からすると、その質が異なる通行の内容というべきであり、トーカンマンションの区分所有者にとって、たとえ車路になっているとはいえ、多数の自動車がマンションの敷地内を新たに通行することによる影響は少なくないと認められること、本件通路がトーカンマンションの敷地の一部であること、主として原告のために本件通路が開設されたものではなく、トーカンマンションの区分所有者らが利用することが前提とされていたこと、前記通行地役権設定契約当時原告土地は居住用として利用されており、契約当事者が原告が計画しているような多数の自動車が通行することを予定していたとは認められないこと、以上を総合すると、地産トーカンは、原告による本件通路の通行を無制約に認めたものではなく、原告が計画しているような多数の自動車が通行することは許容していなかったとするのが当事者の合理的な意思に合致するというべきである。

したがって、地産トーカンから区分所有権を取得したトーカンマンションの区分所有者も、原告が計画している駐車場に出入りする自動車の通行を受忍する義務はないと認めるのが相当である。

6  以上のとおり、原告の通行地役権は、原告が主張するような無制限なものであるとは認められず、少なくとも、原告が計画をしている駐車場に出入りする自動車が本件通路を通行することができるものであると認めることはできない。

四  原告の通行地役権のトーカンマンション区分所有者に対する対抗力の有無について

1  前記認定のとおり、地産トーカンは、原告との合意に基づき、トーカンマンションの管理規約及び分譲の際の売買契約書に、原告らが本件通路を自動車等によって通行することを区分所有者が認めることを定めている。

2 右によれば、原告は、本件通路の通行地役権につき登記を経由していないが(争いがない。)、トーカンマンションの区分所有者に対して右通行地役権を主張することができると解するのが相当である。

したがって、右区分所有者で構成されている被告もまた、原告に右登記がないことをもって原告の通行地役権を否定することはできないというべきである。

なお、前記のとおりトーカンマンションの管理規約や分譲時の売買契約書には、原告土地の居住者及びその関係者による通行を認める旨の記載があるが、前記認定のとおり、原告が原告土地に一〇台分の駐車スペースを設けた駐車場を設置して利用したことに対してトーカンマンションの区分所有者らから異議が述べられなかったことをも考慮すると、原告は、前記認定の内容の通行地役権を右区分所有者らに対抗することができると認めるのが相当である。

五  通行妨害禁止及び不法行為による損害賠償請求について

1  前記認定のとおり、原告の通行地役権は、原告が計画しているような駐車場の利用者が自動車によって本件通路を通行することが許されると認めることはできない。

したがって、被告が原告の右駐車場建設計画に対し前記認定のような通知をしたことは、原告の通行地役権を妨害ないし侵害するものとは認められず、被告の右行為は原告に対する不法行為にあたらない。他に、被告が前記のように原告に認められる通行を妨害していることを認めるに足りる証拠はない。

2  右によれば、原告の通行妨害禁止請求及び損害賠償請求は、損害の有無及びその額について判断するまでもなく、いずれも理由がない。

六  結論

以上によれば、原告の本訴請求は、原告が被告に対し、本件通路につき前記の内容の通行地役権を有することの確認を求める限度で理由があり、その余は理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判官竹内民生)

別紙物件目録〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例